muttenz's blog

スイス星空だより

KaiV107の発見からVSX登録まで(2)  「2回めの極小が受かった」

2020年7月18日にKaiV107の極小が受かってわずか4日後にまた極小らしいものが受かりました。

f:id:muttenz:20210114005825p:plain

早速この2回の減光が重なるように周期を探すと、4.016日ぐらいとなりました。

昨年のそれまでの全観測データとこの周期でとりあえず位相図を作成しました。

f:id:muttenz:20210114012155p:plain


 

Canon EOS Kiss X7 のリニアリティーについて 補遺 (cG - V) と (B -V)の関係

これから書くことはCanon EOS Kiss X7のリニアリティとは直接関係は無いのですが、その時に調べたデータからcGmagとVmagのズレが星の色によってどのように変わるかを数少ないデータですが調べてみました。

調査では15の色々な明るさの星を選びましたが、星の色 (B - V) も(ある程度意識的に)0から1.9ぐらいの広い範囲で選びました。

下は全部の星を使った場合の相関図で、相関係数は0.53ぐらいです。

f:id:muttenz:20210111044627p:plain

15の星全部のデータを使った場合

右下の端の2つの星が全体の傾向から外れています。線形近似の係数も0.07程度になりました。

 

B - V < 1.8の星に限る、つまり右の方の3つの星を除いて相関図を作りますと、相関係数は0.96ぐらいになります。

f:id:muttenz:20210111045002p:plain

B - V < 1.8 の星のみでの相関図

cGでは星の色が赤くなるとVより暗く写ってしまうようです。

もっと沢山の星、例えば散開星団のようなかたまりをいっぺんに撮影して統計をとったら良いのでしょうが、とりあえずこのような傾向がありそうです。

KaiV107の発見からVSX登録まで(1)  「発見」

前回のKaiV110が発見されたのと同じようにKaiV67を観測中に2020年7月18日に発見されました。発見時のライトカーブです。

f:id:muttenz:20210107000749j:plain

とってもはっきりした変光なので、これはもうどこかのサーヴェーですでに発見されているだろうと思ったのですが、意外にもASASSN、ATLAS、ZTFどこにも記載されていません!すぐに新変光星としてKaiV107の番号をふりました。

先日掲載したKaiV67付近の概観です。

f:id:muttenz:20210102032722j:plain

KaiV107は右上の方にあります。

 

KaiV110の発見からVSX登録まで  「ようやく登録できた!」

正しいと思われる周期が見つかり、それで作った位相図もリーズナブルなものなのでいよいよVSXに登録を準備できます。

フェーズ0.0付近を対称にしたり、いくつかの極小観測ができるだけ重なるように周期や元期を少し変化させたりして微調整をします。たとえば

 

f:id:muttenz:20210106053926p:plain

赤いデータと黒いデータが重なっていません

f:id:muttenz:20210106053610p:plain

赤と黒のデータが重なるように周期を0.00009日短くしました。

こうして最終的な位相図を作りました。

位相図のデータ点の色はVで観測した場合は緑、Rcの場合はピンク、Icの場合は赤にしています。Cフィルターで比較星のRc光度を使う場合もピンクにしています。

今回はCフィルターの観測で比較星のRc光度を使ったのでピンクです。(VSXではCフィルターの場合は赤の感度が強いのでRc光度を使うことを推奨しています)

f:id:muttenz:20210106054415p:plain

VSXに登録のためにアップロードした位相図です。

11月9日月曜日に登録を申請して10日火曜日にVSXから登録が受理されたとのメールが届きました。

これがKaiV110のVSXのページです。

https://www.aavso.org/vsx/index.php?view=detail.top&oid=2214148

KaiV110は今ではVizieRでもデータとして出てきますが、この変光星はASASSNでもATLAS、ZTFでも検出されていません。

KaiV110のASASSNデータについて

発見した当時もちろんASASSNデータをダウンロードして周期解析をしたのですがパッとした結果は出ませんでした。

f:id:muttenz:20210106055023p:plain

発見当時に考えた周期でASASSNのデータから作った位相図

そして最終的に正しい周期が出たところでもう一度ASASSNデータで位相図を作りましたが、これも意味のあるものではありませんでした。

f:id:muttenz:20210106055336p:plain

VSXに登録した元期と周期でASASSNデータから作った位相図

以上がKaiV110の発見からVSX登録の経緯でした。発見から登録まで約2ヶ月でかなり速い方です。(一番短かったのは昨年のKaiV105で一年前の大晦日に発見して正月2日に3日間で登録できました。)

KaiV110の発見からVSX登録まで  「ほんのわずかの凹みが」

前回載せた位相図をもう一度

f:id:muttenz:20210103193215p:plain

この位相図を見てフェーズ0.75付近で赤いデータの凹みがあるのがどうも気に入りません。赤いデータは2020年8月の観測で、この凹みの部分のフレームを念入りに見たり、比較星が変光していないかなどを調べたりして原因を探しました。しかし特にそれらしいものが見つかりません。ここまで土曜日のことでした。

あくる日曜日の朝、起き抜けに突然ひょっとしたら周期は更に半分の1.286日ではないだろうかとひらめきました。(たいしたひらめきではないですが。。。)

そうしたら見事この凹みが第二極小となったのです

f:id:muttenz:20210104172241p:plain

新しい周期での位相図。黒、2020年9月までの、赤、10月と11月のデータ

発見当初は9日の比較的長い周期かもしれないと思ったのがとうとう周期1日台にまで短くなってしまいました。いつになったらVSXに登録できるだろうと思っていたのが、これで一気にVSXに登録できそうになってきました。

 

KaiV110の発見からVSX登録まで  「観測をするとしないとでは。。。」

「観測をするとしないとでは無限大とゼロの差がある」という本田實先生のお言葉を倉敷の赤澤さんが座右銘としておられると、かつて教えて下さいました。

そのことを実感したのが2020年11月6日でした。

その日、久しぶりに観測ができそうな天気が巡ってきたのですが、KaiV110を観測出来る時間はもう短いし、いくつかの候補の周期での予報ではその日は極小もないはずで、KaiV110を観測するべきか他の変光星を観測するべきか迷いました。しかし、やりかけたことは出来なくなるまでやってみるかと、その晩KaiV110が隣家の屋根の向こうに沈むまで観測しました。

明くる土曜日には、せいめい望遠鏡の公開インターネット中継があり、2019年に見せていただいたのを懐かしく思い出しながら、午前中はその中継をずっと見続けました。その後で前の晩の観測を整約し、本当にびっくりしました。自分が作った予報ではないはずの極小が、なんと観測の終わりの方で受かっています。これがそのライトカーブです。

f:id:muttenz:20210103192233p:plain

観測の終わりの方ではKaiV110の仰角が30度を切りデータが乱れています。最後のデータでは仰角13度でした。

 

今から考えると特に根拠はないのですが、そのころKaiV110の周期は長めの周期、短くて3-4日以上ぐらいだろう考えていました。しかしそれまで仮定していた周期は見事にハズレでした!

そこで11月6日の晩に極小が来る周期を探したら、2P/7でそうなることがわかり、ただちにその周期で位相図を作成しました。

f:id:muttenz:20210103193215p:plain

新しい周期2.5726日とそれまでの観測データで作成

これで周期は2.5726日に決定できたと思いました。。。

KaiV110の発見からVSX登録まで 「周期を探す」

下図は前回書いた2回めの極小のライトカーブです。

f:id:muttenz:20210103050821j:plain

最初の極小から9.004日後の9月18日にまた極小が受かった

前回書きましたが、9日あまりでまた極小が受かった場合、この2回の極小が同じ極小であったのか、それとも異なる極小だったのかは、今回のように同じくらいの深さだと区別は付きません。しかし幸い今回はその2回の極小の間、毎晩観測できていました。

いま2つの極小の間隔、9.004日をPとします。

同じ極小を観測していた場合の周期の可能性はP、P/2,P/3、P/4あたりでしょうか。

(後記 と、書いたのですが、P/3の場合はちょうど周期が3日となり、それならば9日連続観測で気がついたはずで、ありえませんのでP/3はナシです。)

違う極小を観測していた場合の周期の可能性は2P、2P/3、2P/5、2P/7ぐらいが考えられます。

(後記 と、書いたのですが、2P/3の場合はちょうど周期が6日となり、それならば9日連続観測で気がついたはずで、ありえませんので2P/3はナシです。)

9月以前の、そして別の年の観測でKaiV110が写っていないか全観測フレームを探しました。

残念ながら、別の年にはまったく写っていませんでしたが、2020年の9月以前の観測からさらに測光データを得ることができました。

全データを使い上記のようないろいろな周期で位相図を作りました。

全部の組み合わせはちょっと冗長なのでいくつか掲載します。緑は2020年6月から7月の、赤は8月の、黒は9月の観測データです。

f:id:muttenz:20210103052321p:plain

周期を2Pとした場合

f:id:muttenz:20210103052821p:plain

周期をPとした場合

f:id:muttenz:20210103052917p:plain

周期をP/2とした場合

f:id:muttenz:20210103053134p:plain

周期を2P/5とした場合

これらの位相図からは周期を決定出来るような事実が見つかりませんでした。

そこでとりあえずいくつかの周期を仮定して予報を作り、極小がありそうな場合は少しでも観測するように心がけました。例えば極小の底だけでも受かればそのあたりに極小があるということがわかりますので。しかし、9月のように好天気が続くことはその後とうとう今までありませんでした。10月はたった3回、3.19,31日しか観測できず、すべて食外のようでした。

もし周期がPとかP/2だったら第二極小を観測することは2020年内は不可能となります。しかもKaiV110があるわし座はどんどん西へと動き、観測出来る時間は短くなる一方で、この分だと年内にVSX登録は無理かと思われました。