KaiV107の発見からVSX登録まで(9) 「VSXに登録」
2019年の観測はVフィルターで行いました.
そのデータと2017年、2020年のCフィルターでの観測の食外の光度を比較しました。Cフィルターでの観測データで比較星の光度にV光度を使うと(このような場合、VSXではCVデータと表記することになっています)2019年のVフィルターデータと、補正値を加えることなくマッチすることがわかりました。
そこで2017年、2019年、2020年の3シーズンの全データをそのまま組み合わせて位相図を作成することにしました。
その際、何回か観測された第一極小のカーブができるだけ重なるように周期を少しずつ変化させてベストの周期をまず探し、それからフェーズ 0.0 の軸に対してカーブが対称になるように元期を少しずらしました。(上図)
これによって得られた元期と周期で第二極小付近の位相図を見ます.
さらにKaiV107のAPASSのデータを取得しましたが、結構ばらついており諸要素の本質的な改良には役に立ちません。ただ、食外光度がほぼ妥当であることはわかりました。(下図で赤いデータポイント)
これでKaiV107のいろいろなデータが揃ったのでVSXに登録する準備が整いました。
全体の位相図を作成し、12月3日にアップロードしたら15分後には下のメッセージが来ました!発見から約5ヶ月かかって登録できました。これでVSXに登録できた新変光星が80個になりました。なお、書いたかもしれませんがこの変光星はどのサーヴェー(ATLAS、ASASSN、ZTF)にも記載されていない完全に新変光星でした。
Dear Kiyoshi Kasai,
Congratulations! Your submission to VSX of the new variable star 'KaiV107' has been reviewed by a moderator and APPROVED. The data from this submission is now available from the public database. In addition, an AAVSO Unique Identifier (AUID) of 000-BNS-570 has been assigned to the star, and may be used when submitting observations. Your assistance in making VSX a better tool is much appreciated.
Clear skies,
VSX Administration
KaiV107のページです。
https://www.aavso.org/vsx/index.php?view=detail.top&oid=2214290
KaiV107の発見からVSX登録まで(8)「新しい位相図」
周期を2倍にして9月19日までの2020年の全観測データを位相図にしました。
この要素でそれぞれの極小付近を拡大してみますと。
第二極小がフェーズ 0.5 より少し左にずれていて、この星のシステムが楕円軌道を描いていることがわかり、周期も今までの2倍と確定できました。ブログの前シリーズで紹介したKaiV110の場合は、長い周期を考えていたのがどんどん短くなり、最終的には1日あまりになったのに対して、今回のKaiV107では短く考えていたのが、2倍2倍と、どんどん長くなっていきました。
この発見のきっかけとなった9月18日の観測データはフェーズ 0.5 のあたりの少しスキャッターが多く幅が広い部分で、第二極小のズレは位相図ではほんの少しに思えますが、観測では約1時間のズレとなったわけです。
KaiV107の発見からVSX登録まで(7) 「18日の極小は今までの極小とは異なる!」
前々回書きましたように、1年前の極小が位相図でちゃんとフェーズ 0.0 に乗るという事はこの周期はかなりの精度があると保証されます。
前回書いたような予報と極小時刻がずれたということは、今までの極小とずれた極小は異なる極小という結論に達しました。つまり周期を今までの2倍に取り、今回の極小を第二極小とすると第二極小が少しフェーズ 0.5 より早いのだろうと考えられます。
2020年9月の観測データだけでその考えに従って作った位相図がこれです。
KaiV107の発見からVSX登録まで(6) 「極小時刻が予報より早い?!」
昨年の9月はかなり良い天気が続き、14日は予報どおりに極小が受かり、次の極小は18日夜の予定でした。その晩はバーゼルの音楽堂が4年がかりで改築されて新しく入ったパイプオルガンのお披露目の演奏会がありました。遅くなって帰宅し、まずSS CYGを赤澤さんのために観測してからKaiV107の観測を開始しました。それでも極小時刻には間に合うはずで、しかも極小そのものはもうこれで何度か受かっているのでそれほど重要性は無いと考えていました。
ところが明くる日観測データを処理していてこれはおかしいと思いました。極小が十分に受かるはずだったのになんと増光部分しか受かっていないのです。スキャッターが多い観測でしたが、下図がその晩のライトカーブです。
X軸の数字が小さくて読めないかと思います。左から0.44、0.46、0.48ですので、0.475は左から3番めの縦線のすぐ左付近となります。どう見てもそのあたりに極小があるようには見えず、ただ緩やかな増光しか受かっていません。
とにかくこれはショックでした。しかし完全に食外というわけではないので、極小時刻が少し早かったのだろうという結論になりました。
それからこれが何を意味するのか考えました。
KaiV107の発見からVSX登録まで(5) 「2019年のKaiV67の観測フレームでKaiV107を測光」
基本的にはどんな観測でも、測光後必ず変光星が無いかフレームをMuniwinでチェックしていますが、たまにはある星の変光に気が付かないこともあります。
あまり大きな期待はせずに2019年のKaiV67を撮影したフレームを全部チェックし直したら、かなりのフレームでKaiV107が写っており、なんと一つ極小付近が受かっていました。(下図中央)
この2019年の全データを位相図にしてみました。
ほぼ1年前の極小がちゃんとフェーズ 0.0 に乗るので周期がかなり正しいと思われます。
KaiV107の発見からVSX登録まで(4) 「周期を前回の2倍にしてみた」
この変光星を発見するきっかけとなったKaiV67はもう足掛け3年ぐらい観測しています。2017年に観測したフレームに写っていないか全部チェックしたら数回写っているので測光しました。残念ながら極小の観測はありませんでしたが、このような食外のデータも場合によってはある特定の周期の可能性を否定する証拠になることがあるので重要です。(食外のデータが極小のデータの部分に来るような周期は正しいはずが無いからです。)
さて、前回書いたように周期を2日あまりにすると第二極小が受からないことになってしまいます。そこで、それまでの2020年のデータと2017年のデータ全部を使って、周期を2倍にして位相図を作りました。
かなり良い感じですが、第二極小が観測できていないですね。これだとこの周期が正しいということはまだ言えませんし、第二極小がどのくらい深いのかが全くわかりませんからVSXへの登録は全く不可能です。
こういう場合にASASSNデータをここで見つかった周期で位相図にすると役に立つことがありますが、今回は全くだめで、ただのごちゃごちゃの図が出てきました
PDMで周期を探しても意味のありそうな値は見つかりません。
まあ、そういう観測データだったのでASASSNの変光星カタログにも記載されていないわけです。
KaiV107の発見からVSX登録まで(3) 「3回目の極小を観測」
2020年の夏は良い天気が頻繁にありましたが、極小予定の日にちょうど晴れるまでさらに4週間かかりました。8月20日から21日にかけての夜に3回目の極小を観測できました。
これで4日あまりの周期はそう外れた値ではないことがはっきりしたのでそれまでの3回の減光、増光が重なる周期を細かく求めて6月以来のデータで位相図を作りました。
これを見ると第二極小の部分に凹みが全く見られません。ひょっとしたら周期はこの2倍かもしれないと考えはじめました。