muttenz's blog

スイス星空だより

Gaia DR2のGmag、BPmag、RPmagデータからVmagなどの推定値を得る

このテーマについて2019年3月にブログで一度書きました。

muttenz.hatenablog.com

その後新しい論文が出てそちらの方が使いやすいので、紹介します。

gea.esac.esa.int

2019年の手法だと方程式を解くというような手間のかかる方法でしたが、ここで書かれている方法では2次式で推定値を得ることができるのでずっと便利です。そして、その関係式の係数がどのように得られたかも多数の図ではっきり見ることができます。

タイトルにあるようにGaiaの測光システムと他の測光システムとの関係が扱われており、いわゆるJohnson-Cousinsのシステムばかりではなく TYCHO-2 や Hipparcos、SDSS12、2MASS、GSC2.3 などとの関係式もあります。

ここでは、Gaiaの測光システムから我々がよく使うJohnson-Cousinsシステムの推定値を得る話に絞ります。

肝心の関係式の係数は、文中ではTable 5.7 にあると書いてありますが、どうしたわけか印刷ミスで次の Table 5.8 に入っています。

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Josep M. Carrascoによる

上表の下部にG-V、 G-R、 G-I とBP-RPとの関係式の係数が書かれています。

式の形にしますと、例えばVに関しては

G-V = -0.01760 + (-0.006860) * (BP-RP) + (-0.1732) *  (BP-RP) ^2

となります。これを変形して

V = G + 0.01760 + 0.006860 * (BP-RP) + 0.1732 *  (BP-RP) ^2

でGmag、BPmag、RPmagからV等級の推定値が得られます。同様にR、Iの場合も係数を変えれば得られます。

この関係式はVSXのセバスチャンが私に送ってくれたスプレッドシートの中にある式と全く同じでしたので、彼にも信用されている関係式です。なお、この式を適用できる範囲として Table 5.9 に - 0.5 < BP -  RP < 2.75 とあります。

ただ、セバスチャンが注意してくれましたが、この式で得られる値はあくまでも関係式による推定なので、非常にデリケートな問題をこのデータで議論することはできないとのことです。

実際に私がGaiaデータからVに直して使っているのは、山本さん発見の変光星の場合のように周囲にある微光星の光度をV等級で出して、ASASSNデータから引き算するるためにだけです。

 

付記(2021年1月27日)

フェースブックの方で大島さんからご注意をいただきました。ブログのほうだけご覧いただく方のために、ここに大島さんのご注意をコピーしておきます。ブログの記事も「変換式」を「関係式」に直すなど数カ所表現も変更いたしました。

大島さんありがとうございました。

「変換」「変換式」という用語は使わない方が良いと思います。
注意を要するとセバスチャンが言うように、この元記事のタイトルを見るとわかるように、ここで扱われているのは変換目的のための「変換式」ではなくて、あくまで「関係」を調べてそれを表す式です。この関係式だけが独り歩きすると問題を引き起こすと思います。図の方をみれば明らかなように、決して1対1の対応とは言えません。図の広がりとtableの右端のσもセットで考えないといけません。(GとVの関係で言えば、ざっと3σ=0.15等程度かと思うだけですが、図の方をみると1等級の範囲に広がりがあることがわかります)
 あくまで参考のために、別の測光システムの等級に直してみるくらいに留めるのがよいと思います。

 付記(2021年2月1日)

上記のコメントに続いて大島さんがフェースブックでさらにコメントを書き加えてくださったので、それもこちらに転記したいと思います。大島さん、ありがとうございました!

いえ笠井さんの場合は、ちゃんとセバスチャンの注意を書いているので良いのですが、実は以前に何の注記もなしに、別な測光システムとの関係式を変換式として提示し、ソフトの中でも使うというWebがあったので、これは困ったなあと思った経験があったもので、つい力んでしまいました。
 そのような需要(自分の観測の整理に、使っている測光システムでの比較星がない、他の測光システムの値ならあるといような場合)が多いのは、よく分かるのですが、そのような場合に安易に使いすぎると系統的誤差の元になるので、樹分できちんと測光標準星と一緒に観測するまでのつなぎとして臨時に使うなど、あるは、誤差が大きくても良い場合に使うとか、問題があることをわかった上で問題にならない範囲で関係式を使うのがよいということが広まればよいなあと思います。

山本さんが発見された YmoV31 をVSXに登録 (3)

前回書いたようにASASSNデータを修正する必要がないので、gデータだけを少しずらしたデータ(このシリーズ初回のブログ参照)をPDMにかけて周期を探したら246日が得られました。

APASSにデータがないか探しましたがたった一つの測定値しかありません。しかしそれでも位相図に入れる意味があります。このAPASSデータは観測した日付がASASSNデータとはかなり離れているので。周期を変えて位相図を作ると位相図の中で大きく動くからです。

周期を一日ごとに増やしたり減らしたりして試みましたが、結局最初に得られた246日が最善でした。

一番明るくなった日を元期とし、246日を周期として作った位相図です。

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APASSデータは赤で、ライトカーブに良く乗りました。

VSXに登録するにあたり変光星の変光範囲が必要ですが、ASASSNデータには16等付近までしかありません。そこでVSXのセバスチャンにメールで尋ねたらPan-STARRS1に16.7 Vの 暗いデータがあるとのことで、極小光度は16.7等以下とすることになりました。
その問い合わせのメールで、この変光星の名称にYmoV31を使いたいと書いたのですが、ATLASで一応見つけているのでタイプも周期も外れていたがATLASのIDを使ってほしいと言われ、残念ながらそれに従わなければなりませんでした。

しかし発見者は山本さんになりました。それから今気がついたのですが、VSXに送った位相図とライトカーブ図のタイトルにはYmoV31と書いたままでした。。。。

 

数日前のYmoV31の記事に山本さんがコメントを下さいました。

変光しているのに誰にも気が付いてもらえない星はかわいそうです。」

この方は変光星をこれほどに愛でておられるのだなぁと感動しました!

 

1月19日に登録申請して、ちょっと修正の後OKになりました。

山本さん、おめでとうございます!

 

このVSX登録の後ではたと前原さんのKWSのデータがないだろうかと思いつき、ダウンロードしました。Vデータはなかったのですが Ic データがかなり沢山あります。登録した要素でどんな位相図ができるか、興味津々で作ってみました。

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前原さんのKWSから得たデータを使ったYmoV31の位相図

極大が見事にフェーズ0.0に来ました!このミラ型変光星の周期はかなり安定しているものと思われます。

山本さんが発見された YmoV31 をVSXに登録  (2)

YmoV31はへびつかい座にあって天の川のなかで周囲は星だらけです。

ミラ型のように変光範囲が大きいと周囲にある微光星の影響も無視できません。というのは変光星が暗くなった時期のASASSNデータは、周囲の微光星の光を変光星の光と区別できず、変光星の光度として測光することがあるからです。前回VSXに登録した山本さん発見の変光星YmoV30の場合は比較的明るい星が周囲にあってその影響を取り除くのにかなり手間取りました。

muttenz.hatenablog.com

YmoV31の周囲はというと、ありがたいことにVで18.4等より明るい星が周囲にはありません。(正確にいうと変光星から半径17秒より外の星はASASSNデータの測光に影響しません。ただし非常に明るい星はもっと遠くでも影響しますが。)

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YmoV31周辺のDSSの青画像(Aladin)

YmoV31の左の方にある明るめの星まで約32秒角です。

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YmoV31周辺のDSSの赤画像(Aladin)

YmoV31が赤いのが良くわかります。そのすぐ左にほとんど重なっているオレンジ色の暗い星はYmoV31に極めて近いですが、V18.5等なので16等以上のデータにはほとんど影響ありません。

このような微光星のV等級データはUCAC4などでも全く記載がないので、Gaia DR2のデータから算出します。(これについてはいつか別に書きます。)

山本さんが発見された YmoV31 をVSXに登録 (1)

昨年末に個人的に山本さんからメールを頂き、長周期の変光星 YmoV31 (山本さんが個人的に付けておられる仮名称)を見つけたが新変光星だろうかとのご相談を受けました。

VizieRで検索してみると、ATLASで変光星として登録されていますが、タイプは IRR (Irregular)、周期は491日となっています。

今年に入ってASASSNデータをダウンロードしてみました。

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ASASSNのデータで、Vフィルターとgフィルターのデータが混ざっています

黒の小さな逆3角形は星が検出されず、その光度より暗かったことを示します

Kochanek, C. S.; et al., 2017

 

上の図で緑がVフィルターデータで他の色のがgフィルターですが、gのデータを0.77等明るく移動するとピッタリとつながります。

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最初の図中のgフィルターのデータを0.77等明るく移動した(水色)

8400付近でVとgのライトカーブがうまく重なる

 

全部のデータで周期解析をしてみますと、かなり安定した周期246日を持っており、IRRのタイプは当たらないようです。変動幅も大きいのでミラ型がほぼ確実です。

というわけで、ATLASに記載のタイプも周期も間違っていることが確かになり、VSXの規定で山本さんに発見のクレジットが与えられることになります。

ちょっと不思議なのはASASSNデータがこれほどはっきりしているのにASASSNの変光星データベースに載っていないことです。

KaiV107の発見からVSX登録まで(9)  「VSXに登録」

2019年の観測はVフィルターで行いました.

そのデータと2017年、2020年のCフィルターでの観測の食外の光度を比較しました。Cフィルターでの観測データで比較星の光度にV光度を使うと(このような場合、VSXではCVデータと表記することになっています)2019年のVフィルターデータと、補正値を加えることなくマッチすることがわかりました。

そこで2017年、2019年、2020年の3シーズンの全データをそのまま組み合わせて位相図を作成することにしました。

 

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緑は2019年のVデータ、青は2020年のCVデータ

その際、何回か観測された第一極小のカーブができるだけ重なるように周期を少しずつ変化させてベストの周期をまず探し、それからフェーズ 0.0 の軸に対してカーブが対称になるように元期を少しずらしました。(上図)

これによって得られた元期と周期で第二極小付近の位相図を見ます.

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第二極小はフェーズ 0.495 付近に来ることが分かった

さらにKaiV107のAPASSのデータを取得しましたが、結構ばらついており諸要素の本質的な改良には役に立ちません。ただ、食外光度がほぼ妥当であることはわかりました。(下図で赤いデータポイント)

これでKaiV107のいろいろなデータが揃ったのでVSXに登録する準備が整いました。

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全体の位相図を作成し、12月3日にアップロードしたら15分後には下のメッセージが来ました!発見から約5ヶ月かかって登録できました。これでVSXに登録できた新変光星が80個になりました。なお、書いたかもしれませんがこの変光星はどのサーヴェー(ATLAS、ASASSN、ZTF)にも記載されていない完全に新変光星でした。

Dear Kiyoshi Kasai,

Congratulations! Your submission to VSX of the new variable star 'KaiV107' has been reviewed by a moderator and APPROVED. The data from this submission is now available from the public database. In addition, an AAVSO Unique Identifier (AUID) of 000-BNS-570 has been assigned to the star, and may be used when submitting observations. Your assistance in making VSX a better tool is much appreciated.

Clear skies,
VSX Administration

KaiV107のページです。

https://www.aavso.org/vsx/index.php?view=detail.top&oid=2214290

KaiV107の発見からVSX登録まで(8)「新しい位相図」

周期を2倍にして9月19日までの2020年の全観測データを位相図にしました。

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元期は今まで通りで、周期は今までの4.1332日の2倍で8.2664日です。

この要素でそれぞれの極小付近を拡大してみますと。

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第一極小付近です

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第二極小付近です

第二極小がフェーズ 0.5 より少し左にずれていて、この星のシステムが楕円軌道を描いていることがわかり、周期も今までの2倍と確定できました。ブログの前シリーズで紹介したKaiV110の場合は、長い周期を考えていたのがどんどん短くなり、最終的には1日あまりになったのに対して、今回のKaiV107では短く考えていたのが、2倍2倍と、どんどん長くなっていきました。

この発見のきっかけとなった9月18日の観測データはフェーズ 0.5 のあたりの少しスキャッターが多く幅が広い部分で、第二極小のズレは位相図ではほんの少しに思えますが、観測では約1時間のズレとなったわけです。

 

KaiV107の発見からVSX登録まで(7)  「18日の極小は今までの極小とは異なる!」

前々回書きましたように、1年前の極小が位相図でちゃんとフェーズ 0.0 に乗るという事はこの周期はかなりの精度があると保証されます。

前回書いたような予報と極小時刻がずれたということは、今までの極小とずれた極小は異なる極小という結論に達しました。つまり周期を今までの2倍に取り、今回の極小を第二極小とすると第二極小が少しフェーズ 0.5 より早いのだろうと考えられます。

2020年9月の観測データだけでその考えに従って作った位相図がこれです。

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フェーズ 0.0 の極小は14日の、フェーズ 0.5 の極小は18日の極小です。