muttenz's blog

スイス星空だより

Gaia DR2のGmag、BPmag、RPmagデータからVmagなどの推定値を得る  新しい試み(1)

このタイトルで今年の初め頃にも一度ブログに書きました。

muttenz.hatenablog.com

この時に使ったのはGaiaのホームページにあった、Gaiaの測光システムと色々な測光システムとの関係式でした。

その際、V、Rc、Icの推定光度をGmag、BPmag、 RPmagから得るのに二次のオーダーの関係式でやったのですが、Bの光度推定はできませんでした。

札幌の金田さんがなんとかBの推定光度を出す方法がないかと訊いて来られたので、三次方程式を解く方法を一応提案したのですが、問題が生じてしまうのでなんとかならないか色々とやってみました。

 

これからここに書くことは今年3月頃、金田さんと一緒にやってみたことです。

先のGaiaのホームページにあった関係式がどのような手法で得られたかについて(話しをV光度の場合として)概略を説明します。(これはGaiaのページで説明されているわけではなく、掲載されている図から推測したものです。)

Vをある星のLandoltの星表からのV光度値、Gmag、BPmag、RPmagをその星のGaia DR2での光度値、bprp = BPmag - RPmagとします。

Gmag - V をy軸にとり、bprpをx軸にとってプロットし、それの非線形回帰として

Gmag - V = a x (bprp)^2 + b x (bprp) + c  という二次のモデル式の係数を最小二乗法で求めたもののようでした。(Rc、Icも同様に関係式を求めているようです)

ただし、どのようなLandoltの星表を使ったのか、どのくらいの星数が使われたのかは記載されておらずわかりません。

 

そこで、現在OnlineでLandoltが測光しデータを公開しているものを検索しました。そうしたら、下記のリンクに星数が約4万3千あまりの星表が見つかりました。

Landolt-2013と呼ぶことにします。

https://cfn-live-content-bucket-iop-org.s3.amazonaws.com/journals/1538-3881/146/4/88/1/aj483396t7_mrt.txt?AWSAccessKeyId=AKIAYDKQL6LTV7YY2HIK&Expires=1626359630&Signature=AIlCvfWTopO42GxF%2FpSVSVfAbRo%3D

このLandolt-2013とそれに対応するGaiaデータを使って、上記のような手法で新たに推定式を作ってみようということになりました。

この星表には、V等級で7等から22等までの、43587個のUBVRcIc等級が掲載されています。

下はLandolt-2013のV光度別のヒストグラムです。

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V等級で一等級ごとの星数です。

 

しかし、今回はこの内、V等級で15等級(16等未満)までの星6070個を対象に計算することにしました。

そのために金田さんはわざわざプログラムを特別に作成して、6千個あまりの星のGaiaデータを取得してくださいました。(相当の時間がかかったようです。ありがとうございました!)

この対象とした星表をこれから単にLandoltと呼ぶことにします。

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LandoltのV等級ごとのヒストグラムです。

Landoltの各星は何度も測光されていてその回数のヒストグラムです。横軸が観測回数で縦軸がその星の数。

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一番星数が多いのは11回から20回ですが、星によってはなんと170回以上も測光されています。

それぞれの星の光度値にその標準偏差値が付随しています。LandoltのV光度ではその平均値は0.0018となります。大変な精度です。

 

RV CVnの観測

スイスでは今年は5月も6月もひどい天気でした。しかも緯度が高いので夜が極めて短い時期です。なので数晩晴れた時に周期が短い食変光星、RV CVnを観測してみました。

周期が短いので数回の観測から全位相図を作ることができました。特に変わったEWではありませんが極大に差が少しあり、第一極小はおそらく皆既食のように思えます。

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食変光星の要素としてVSXの元期、周期で位相図を作りました

VSXの周期だとかなり極小が0.0や0.5から外れます。VSXでは変光範囲もCVのバンドとなっていて、Vバンドではありません。

これならばVSXのデータを改訂する意味がありそうなので、ASASSNのデータやAPASSのデータもダウンロードして周期を探すことにしました。上の図の要素でこれらのデータを入れて位相図を作るとこのようになります。

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APASSとASASSNのデータをそのまま使ってVSXの要素で位相図を作成

VSXの元期がAPASSやASASSNの観測と時期的に近いのでそれらのデータはほぼ極小が0.0や0.5に乗りますが、私の観測データは外れます。

少し試行錯誤をした結果、周期をVSXの周期よりほんの少しだけ短くするのが良いとわかりました。(0.0000007日(0.06秒)短くしました。)

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これでVSXにデータの改訂をできる準備が整いましたので、先程VSXに改訂を申請したらすぐに受理されました。

https://www.aavso.org/vsx/index.php?view=detail.top&oid=5031

二人のフルーティストの名が小惑星に

私とスイスの有名なフルーティストのグラーフさんの名が小惑星につけられました。金田さんと上田さんが見つけられた小惑星で、5834 Kasaiと5856 Pelukです。

グラーフさんは友人たちの間ではPelukと呼ばれていて、Grafではなく彼の希望でPelukとなりました。

それぞれ下記のサイトで最近公表されました。

Kasai

https://www.wgsbn-iau.org/files/Bulletins/V001/WGSBNBull_V001_001.pdf

Peluk (ちょうどMeinekoさんと並んでいます)

https://www.wgsbn-iau.org/files/Bulletins/V001/WGSBNBull_V001_003.pdf

天体に自分の名がつくというのは大変に名誉なことでまるで夢のようで嬉しいです。

金田さんのご厚意に心から感謝しております。どうもありがとうございました。

5834が衝に近づくのをずっと待っていましたがようやく天気も味方してくれて、今朝未明に1時間半あまりわし座にあるところを撮影できました。次第に小惑星が移動していくのがわかります。

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2021年6月26日午前2時45分 ヨーロッパ夏時間

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同3時36分

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同4時29分 薄明が始まり空がやや明るくなってしまった

現在地球との距離は約1.7天文単位で2.5億キロメートルあります。光度は約16等でした。

久しぶりの観測 RV CVn

今年のスイスの春は非常に天気が悪く、五月は毎日のように雨が降り、寒くとても春とは感じられませんでした。五月の平均気温は30年ぶりの低さだったそうです。

望遠鏡がまだちゃんと動くか心配でしたが大丈夫でした。ただCCDカメラの中の水分がやや増えてしまって、冷却すると霜が発生するので、マイナス5度にしかできませんでした。

5月の最後の3日と6月1日と4回RV CVnを観測できました。

特に31日と1日は夜通しで晴れて、その2回だけの観測で全位相が観測できました。その位相図です。

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第一極小は皆既のようで、第一極大の方が第二極大よりやや暗いようです。

NSV 3506について

数日前にMoriyamaさんがvsolj-obsへの観測報告にNSV 3506が通常より2等ぐらい暗くなっていますと書いておられました。

[vsolj-obs 70568] CCD変光星観測報告(2021/03/03) by Myy

それについてvsnet-eclに加藤さんがこのように投稿されました。

[vsnet-ecl 7965] NSV 3506: EA star with deep eclipses

NSV 3506: EA star with deep eclipses

   Moriyama-san noted a deep fading of this object.

ASAS-SN data:
https://asas-sn.osu.edu/sky-patrol/coordinate/7cad1a29-91bc-4de8-adc8-f13aacccbac1

   I obtained a period of 6.983378(3) d.  The eclipses
are 2.6 mag deep and total.  Secondary eclipses are
also visible.

VSXを見ますとNSV 3506についてのデータはポジション以外は何もありません。
そこで加藤さんが書かれたASASSNのサイトからデータをダウンロードし、さらにAPASSからもデータを得て、加藤さんが算出された周期をさらに下記のような方法で改善しました。

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第一極小付近の拡大図です。
図中緑はASASSNのVデータで青はASASSNのgデータで、赤がAPASSのデータとなります。APASSのデータポイントが一つ第一極小からの増光部分にあるので、それがうまく増光カーブに乗るように周期を決めました。その結果周期は6.9830日となり、元期にはMoriyamaさんが減光に気づかれた夜にしました。
全体の位相図です。

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APASSの光度にASASSNのV、gデータをそれぞれ+0.07、-0.08等ずらして合わせています。
VSXにこのデータ改訂を申請し、同時にセバスチャンにメールを書いたらセバスチャンは現在休暇中との自動の返事が来たので、当分申請は受理されないだろうと思っていたら今日受理のメールが来て少々びっくりしました。とにかく良かったです。
Moriyamaさん、加藤さん、お二人に心から感謝いたします。
VSXのURLアドレスです。

https://www.aavso.org/vsx/index.php?view=detail.top&oid=42130





Gaia DR2の年周視差にマイナスの値がある?!

先月、札幌の金田さんからメールでGaia DR2の年周視差にマイナスの値があるものがあるのですが、一体どう解釈すればよいのでしょうと質問をいただきました。

えーっ!?本当にそんなデータがあるのですか?とお尋ねしたらサンプルを送って下さいました。

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plxが年周視差のの列で、上から5番目、下から6番目、2番めなどにマイナスの値が見られる

無限遠より遠いことになる?全く理解できないのでセバスチャンにこの例を送ってどう考えればよいのだと尋ねたら、彼もよくわからないとのこと。このサイトでも参考にしたらと2つのリンクを送ってくれました。

ui.adsabs.harvard.edu

astronomy.stackexchange.com

2番めのサイトで更に次のアドレスが紹介されていました。

github.com

というわけで、Gaia DR2に年周視差がマイナスのデータがあるというのはもう知られた事実だったようです。

少々読んだくらいでは全然わからないので諦めましたが、星が非常に混み合ったところで起こるらしいです。なので星の取り違えが起こっているのではと私は想像しています。

VSXのV831 Aurの周期と変光範囲を改訂

1月16日に伊藤さんがVSOLJにV831Aurの観測報告をしておられ、その中で極小予報が4時間位ずれていて、極小観測ができなかったと書いておられました。VSX(GCVS)の元期や周期は2000年頃のでそれほど古くもないのに4時間のずれは大きいです。ひょっとしたらASASSNでもう正確な周期がでているかとVizieRをみたらASASSNは周期を出していません。V831 Aurは9等台で明るいのでこれならばKWSで良いデータがあるだろうと、Vデータをダウンロードして周期をPDMで出しました。

VSXにあった周期は0.87648で、KWSから得られた周期は0.876358で、0.000122日短いです。これは10秒あまりのことですが、20年も経つと4時間位ずれてしまったわけです。

そこでさらにAPASSデータとASASSNデータもダウンロードして位相図にしました。

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ASASSNのデータは黒ですが、かなりばらついている印象ですね。この星はASASSNには明るすぎてサチってしまっています。それでも極小部分の谷ははっきりと凹んでいて周期がこれであっていることがはっきりします。APASSデータ、赤もAPASSにしてはかなりばらついています。

昨日VSXに改訂申請を出して少し修正したら先程OKが来ました。

https://www.aavso.org/vsx/index.php?view=detail.top&oid=149576