muttenz's blog

スイス星空だより

不思議な変化を示すKaiV67

KaiV67についてはこれまで数回報告しています。

簡単に要約しますと、2017年TCP J20100517+1303006を観測していて見つけた変光星で、その後、昨年までの観測で周期はほぼ5日のEAということになりました。

下図で青はClearフィルター、緑はVフィルターによる観測データ。

 

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2019年までの観測データから作成した位相図

昨年はVフィルターで観測したのですが、この星は暗いのでどうしてもスキャッターが多くなります。しかも今まで食の底が受かっていないので、今シーズンはClearフィルターで観測することにして、6月21日に観測を再開しました。予報どおりに7月13日と18日には第一極小が受かりました。(下は第一極小付近の位相図。緑、13日、青、18日)

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7月13日と18日の第一極小の様子 食の底がはっきりと受かりました。

 

そこで位相図を作って見て困ってしまいました。

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今年6月21日から7月18日までの観測データから作成した位相図

位相、0.6-0.7あたりにあるデータ(これは6月21日の観測データなのですが)が極小後の最大光度よりはっきりと暗いのです。比較星が変化したのかと調べましたが問題ありません。ひょっとしてなにかのエラーかと思いながら観測を続けました。

そこに倉敷の赤澤さんが観測データを送ってくださり、ちょうどその問題のフェーズあたりでした。そうしたら赤澤さんのデータも同じように最大光度よりはっきりと暗いのです。

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赤が赤澤さんが送ってくださったデータ

これで、6月21日のやや暗めのデータが何らかの誤りではなさそうと考えられることになりました。赤澤さん、ありがとうございました!

こうなるとこの位相図はちょっと今まで考えていた単純なEAではなさそうで、昨年までの位相図からの変化は明らかです。

先程、昨晩までの今シーズンの観測を全部入れた位相図を作りました。

周期がほぼ5日なので極小ごとに色を変えてあります。同じフェーズ付近が繰り返して観測されていて、ほぼ同じ光度というのがわかるようにデータ点の大きさをかなり小さく取りました。

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今シーズンのこの位相図だけを見せられたら脈動変光星、ケフェイドタイプかなと考えられるのですが、最初に載せたように昨年までの位相図は完全に食変光星のものです。

今シーズン、残念ながら第一極小への減光が全く捉えられていません。

この星がはっきりと減光しているのは2017年と昨年と2回受かっています。

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2017年の減光

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2019年の減光

この減光の様子から脈動タイプ、Rotタイプはありえないと考えられます。

おそらくこの変光星はEAタイプで黒点が今年は非常に活発にできているということでしょう。とにかく大変に面白い星です。ただかなり暗いので条件が良くないと使い物になるデータが得られません。

なお、この変光星はVSX、ASASSNには記載はなく、ATLASでは全く外れの周期でDubiousとなっています。