muttenz's blog

スイス星空だより

RV CVnの観測

スイスでは今年は5月も6月もひどい天気でした。しかも緯度が高いので夜が極めて短い時期です。なので数晩晴れた時に周期が短い食変光星、RV CVnを観測してみました。

周期が短いので数回の観測から全位相図を作ることができました。特に変わったEWではありませんが極大に差が少しあり、第一極小はおそらく皆既食のように思えます。

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食変光星の要素としてVSXの元期、周期で位相図を作りました

VSXの周期だとかなり極小が0.0や0.5から外れます。VSXでは変光範囲もCVのバンドとなっていて、Vバンドではありません。

これならばVSXのデータを改訂する意味がありそうなので、ASASSNのデータやAPASSのデータもダウンロードして周期を探すことにしました。上の図の要素でこれらのデータを入れて位相図を作るとこのようになります。

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APASSとASASSNのデータをそのまま使ってVSXの要素で位相図を作成

VSXの元期がAPASSやASASSNの観測と時期的に近いのでそれらのデータはほぼ極小が0.0や0.5に乗りますが、私の観測データは外れます。

少し試行錯誤をした結果、周期をVSXの周期よりほんの少しだけ短くするのが良いとわかりました。(0.0000007日(0.06秒)短くしました。)

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これでVSXにデータの改訂をできる準備が整いましたので、先程VSXに改訂を申請したらすぐに受理されました。

https://www.aavso.org/vsx/index.php?view=detail.top&oid=5031

二人のフルーティストの名が小惑星に

私とスイスの有名なフルーティストのグラーフさんの名が小惑星につけられました。金田さんと上田さんが見つけられた小惑星で、5834 Kasaiと5856 Pelukです。

グラーフさんは友人たちの間ではPelukと呼ばれていて、Grafではなく彼の希望でPelukとなりました。

それぞれ下記のサイトで最近公表されました。

Kasai

https://www.wgsbn-iau.org/files/Bulletins/V001/WGSBNBull_V001_001.pdf

Peluk (ちょうどMeinekoさんと並んでいます)

https://www.wgsbn-iau.org/files/Bulletins/V001/WGSBNBull_V001_003.pdf

天体に自分の名がつくというのは大変に名誉なことでまるで夢のようで嬉しいです。

金田さんのご厚意に心から感謝しております。どうもありがとうございました。

5834が衝に近づくのをずっと待っていましたがようやく天気も味方してくれて、今朝未明に1時間半あまりわし座にあるところを撮影できました。次第に小惑星が移動していくのがわかります。

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2021年6月26日午前2時45分 ヨーロッパ夏時間

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同3時36分

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同4時29分 薄明が始まり空がやや明るくなってしまった

現在地球との距離は約1.7天文単位で2.5億キロメートルあります。光度は約16等でした。

久しぶりの観測 RV CVn

今年のスイスの春は非常に天気が悪く、五月は毎日のように雨が降り、寒くとても春とは感じられませんでした。五月の平均気温は30年ぶりの低さだったそうです。

望遠鏡がまだちゃんと動くか心配でしたが大丈夫でした。ただCCDカメラの中の水分がやや増えてしまって、冷却すると霜が発生するので、マイナス5度にしかできませんでした。

5月の最後の3日と6月1日と4回RV CVnを観測できました。

特に31日と1日は夜通しで晴れて、その2回だけの観測で全位相が観測できました。その位相図です。

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第一極小は皆既のようで、第一極大の方が第二極大よりやや暗いようです。

NSV 3506について

数日前にMoriyamaさんがvsolj-obsへの観測報告にNSV 3506が通常より2等ぐらい暗くなっていますと書いておられました。

[vsolj-obs 70568] CCD変光星観測報告(2021/03/03) by Myy

それについてvsnet-eclに加藤さんがこのように投稿されました。

[vsnet-ecl 7965] NSV 3506: EA star with deep eclipses

NSV 3506: EA star with deep eclipses

   Moriyama-san noted a deep fading of this object.

ASAS-SN data:
https://asas-sn.osu.edu/sky-patrol/coordinate/7cad1a29-91bc-4de8-adc8-f13aacccbac1

   I obtained a period of 6.983378(3) d.  The eclipses
are 2.6 mag deep and total.  Secondary eclipses are
also visible.

VSXを見ますとNSV 3506についてのデータはポジション以外は何もありません。
そこで加藤さんが書かれたASASSNのサイトからデータをダウンロードし、さらにAPASSからもデータを得て、加藤さんが算出された周期をさらに下記のような方法で改善しました。

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第一極小付近の拡大図です。
図中緑はASASSNのVデータで青はASASSNのgデータで、赤がAPASSのデータとなります。APASSのデータポイントが一つ第一極小からの増光部分にあるので、それがうまく増光カーブに乗るように周期を決めました。その結果周期は6.9830日となり、元期にはMoriyamaさんが減光に気づかれた夜にしました。
全体の位相図です。

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APASSの光度にASASSNのV、gデータをそれぞれ+0.07、-0.08等ずらして合わせています。
VSXにこのデータ改訂を申請し、同時にセバスチャンにメールを書いたらセバスチャンは現在休暇中との自動の返事が来たので、当分申請は受理されないだろうと思っていたら今日受理のメールが来て少々びっくりしました。とにかく良かったです。
Moriyamaさん、加藤さん、お二人に心から感謝いたします。
VSXのURLアドレスです。

https://www.aavso.org/vsx/index.php?view=detail.top&oid=42130





Gaia DR2の年周視差にマイナスの値がある?!

先月、札幌の金田さんからメールでGaia DR2の年周視差にマイナスの値があるものがあるのですが、一体どう解釈すればよいのでしょうと質問をいただきました。

えーっ!?本当にそんなデータがあるのですか?とお尋ねしたらサンプルを送って下さいました。

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plxが年周視差のの列で、上から5番目、下から6番目、2番めなどにマイナスの値が見られる

無限遠より遠いことになる?全く理解できないのでセバスチャンにこの例を送ってどう考えればよいのだと尋ねたら、彼もよくわからないとのこと。このサイトでも参考にしたらと2つのリンクを送ってくれました。

ui.adsabs.harvard.edu

astronomy.stackexchange.com

2番めのサイトで更に次のアドレスが紹介されていました。

github.com

というわけで、Gaia DR2に年周視差がマイナスのデータがあるというのはもう知られた事実だったようです。

少々読んだくらいでは全然わからないので諦めましたが、星が非常に混み合ったところで起こるらしいです。なので星の取り違えが起こっているのではと私は想像しています。

VSXのV831 Aurの周期と変光範囲を改訂

1月16日に伊藤さんがVSOLJにV831Aurの観測報告をしておられ、その中で極小予報が4時間位ずれていて、極小観測ができなかったと書いておられました。VSX(GCVS)の元期や周期は2000年頃のでそれほど古くもないのに4時間のずれは大きいです。ひょっとしたらASASSNでもう正確な周期がでているかとVizieRをみたらASASSNは周期を出していません。V831 Aurは9等台で明るいのでこれならばKWSで良いデータがあるだろうと、Vデータをダウンロードして周期をPDMで出しました。

VSXにあった周期は0.87648で、KWSから得られた周期は0.876358で、0.000122日短いです。これは10秒あまりのことですが、20年も経つと4時間位ずれてしまったわけです。

そこでさらにAPASSデータとASASSNデータもダウンロードして位相図にしました。

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ASASSNのデータは黒ですが、かなりばらついている印象ですね。この星はASASSNには明るすぎてサチってしまっています。それでも極小部分の谷ははっきりと凹んでいて周期がこれであっていることがはっきりします。APASSデータ、赤もAPASSにしてはかなりばらついています。

昨日VSXに改訂申請を出して少し修正したら先程OKが来ました。

https://www.aavso.org/vsx/index.php?view=detail.top&oid=149576

Gaia DR2のGmag、BPmag、RPmagデータからVmagなどの推定値を得る

このテーマについて2019年3月にブログで一度書きました。

muttenz.hatenablog.com

その後新しい論文が出てそちらの方が使いやすいので、紹介します。

gea.esac.esa.int

2019年の手法だと方程式を解くというような手間のかかる方法でしたが、ここで書かれている方法では2次式で推定値を得ることができるのでずっと便利です。そして、その関係式の係数がどのように得られたかも多数の図ではっきり見ることができます。

タイトルにあるようにGaiaの測光システムと他の測光システムとの関係が扱われており、いわゆるJohnson-Cousinsのシステムばかりではなく TYCHO-2 や Hipparcos、SDSS12、2MASS、GSC2.3 などとの関係式もあります。

ここでは、Gaiaの測光システムから我々がよく使うJohnson-Cousinsシステムの推定値を得る話に絞ります。

肝心の関係式の係数は、文中ではTable 5.7 にあると書いてありますが、どうしたわけか印刷ミスで次の Table 5.8 に入っています。

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Josep M. Carrascoによる

上表の下部にG-V、 G-R、 G-I とBP-RPとの関係式の係数が書かれています。

式の形にしますと、例えばVに関しては

G-V = -0.01760 + (-0.006860) * (BP-RP) + (-0.1732) *  (BP-RP) ^2

となります。これを変形して

V = G + 0.01760 + 0.006860 * (BP-RP) + 0.1732 *  (BP-RP) ^2

でGmag、BPmag、RPmagからV等級の推定値が得られます。同様にR、Iの場合も係数を変えれば得られます。

この関係式はVSXのセバスチャンが私に送ってくれたスプレッドシートの中にある式と全く同じでしたので、彼にも信用されている関係式です。なお、この式を適用できる範囲として Table 5.9 に - 0.5 < BP -  RP < 2.75 とあります。

ただ、セバスチャンが注意してくれましたが、この式で得られる値はあくまでも関係式による推定なので、非常にデリケートな問題をこのデータで議論することはできないとのことです。

実際に私がGaiaデータからVに直して使っているのは、山本さん発見の変光星の場合のように周囲にある微光星の光度をV等級で出して、ASASSNデータから引き算するるためにだけです。

 

付記(2021年1月27日)

フェースブックの方で大島さんからご注意をいただきました。ブログのほうだけご覧いただく方のために、ここに大島さんのご注意をコピーしておきます。ブログの記事も「変換式」を「関係式」に直すなど数カ所表現も変更いたしました。

大島さんありがとうございました。

「変換」「変換式」という用語は使わない方が良いと思います。
注意を要するとセバスチャンが言うように、この元記事のタイトルを見るとわかるように、ここで扱われているのは変換目的のための「変換式」ではなくて、あくまで「関係」を調べてそれを表す式です。この関係式だけが独り歩きすると問題を引き起こすと思います。図の方をみれば明らかなように、決して1対1の対応とは言えません。図の広がりとtableの右端のσもセットで考えないといけません。(GとVの関係で言えば、ざっと3σ=0.15等程度かと思うだけですが、図の方をみると1等級の範囲に広がりがあることがわかります)
 あくまで参考のために、別の測光システムの等級に直してみるくらいに留めるのがよいと思います。

 付記(2021年2月1日)

上記のコメントに続いて大島さんがフェースブックでさらにコメントを書き加えてくださったので、それもこちらに転記したいと思います。大島さん、ありがとうございました!

いえ笠井さんの場合は、ちゃんとセバスチャンの注意を書いているので良いのですが、実は以前に何の注記もなしに、別な測光システムとの関係式を変換式として提示し、ソフトの中でも使うというWebがあったので、これは困ったなあと思った経験があったもので、つい力んでしまいました。
 そのような需要(自分の観測の整理に、使っている測光システムでの比較星がない、他の測光システムの値ならあるといような場合)が多いのは、よく分かるのですが、そのような場合に安易に使いすぎると系統的誤差の元になるので、樹分できちんと測光標準星と一緒に観測するまでのつなぎとして臨時に使うなど、あるは、誤差が大きくても良い場合に使うとか、問題があることをわかった上で問題にならない範囲で関係式を使うのがよいということが広まればよいなあと思います。