muttenz's blog

スイス星空だより

山本さんが発見された YmoV31 をVSXに登録 (3)

前回書いたようにASASSNデータを修正する必要がないので、gデータだけを少しずらしたデータ(このシリーズ初回のブログ参照)をPDMにかけて周期を探したら246日が得られました。

APASSにデータがないか探しましたがたった一つの測定値しかありません。しかしそれでも位相図に入れる意味があります。このAPASSデータは観測した日付がASASSNデータとはかなり離れているので。周期を変えて位相図を作ると位相図の中で大きく動くからです。

周期を一日ごとに増やしたり減らしたりして試みましたが、結局最初に得られた246日が最善でした。

一番明るくなった日を元期とし、246日を周期として作った位相図です。

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APASSデータは赤で、ライトカーブに良く乗りました。

VSXに登録するにあたり変光星の変光範囲が必要ですが、ASASSNデータには16等付近までしかありません。そこでVSXのセバスチャンにメールで尋ねたらPan-STARRS1に16.7 Vの 暗いデータがあるとのことで、極小光度は16.7等以下とすることになりました。
その問い合わせのメールで、この変光星の名称にYmoV31を使いたいと書いたのですが、ATLASで一応見つけているのでタイプも周期も外れていたがATLASのIDを使ってほしいと言われ、残念ながらそれに従わなければなりませんでした。

しかし発見者は山本さんになりました。それから今気がついたのですが、VSXに送った位相図とライトカーブ図のタイトルにはYmoV31と書いたままでした。。。。

 

数日前のYmoV31の記事に山本さんがコメントを下さいました。

変光しているのに誰にも気が付いてもらえない星はかわいそうです。」

この方は変光星をこれほどに愛でておられるのだなぁと感動しました!

 

1月19日に登録申請して、ちょっと修正の後OKになりました。

山本さん、おめでとうございます!

 

このVSX登録の後ではたと前原さんのKWSのデータがないだろうかと思いつき、ダウンロードしました。Vデータはなかったのですが Ic データがかなり沢山あります。登録した要素でどんな位相図ができるか、興味津々で作ってみました。

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前原さんのKWSから得たデータを使ったYmoV31の位相図

極大が見事にフェーズ0.0に来ました!このミラ型変光星の周期はかなり安定しているものと思われます。

山本さんが発見された YmoV31 をVSXに登録  (2)

YmoV31はへびつかい座にあって天の川のなかで周囲は星だらけです。

ミラ型のように変光範囲が大きいと周囲にある微光星の影響も無視できません。というのは変光星が暗くなった時期のASASSNデータは、周囲の微光星の光を変光星の光と区別できず、変光星の光度として測光することがあるからです。前回VSXに登録した山本さん発見の変光星YmoV30の場合は比較的明るい星が周囲にあってその影響を取り除くのにかなり手間取りました。

muttenz.hatenablog.com

YmoV31の周囲はというと、ありがたいことにVで18.4等より明るい星が周囲にはありません。(正確にいうと変光星から半径17秒より外の星はASASSNデータの測光に影響しません。ただし非常に明るい星はもっと遠くでも影響しますが。)

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YmoV31周辺のDSSの青画像(Aladin)

YmoV31の左の方にある明るめの星まで約32秒角です。

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YmoV31周辺のDSSの赤画像(Aladin)

YmoV31が赤いのが良くわかります。そのすぐ左にほとんど重なっているオレンジ色の暗い星はYmoV31に極めて近いですが、V18.5等なので16等以上のデータにはほとんど影響ありません。

このような微光星のV等級データはUCAC4などでも全く記載がないので、Gaia DR2のデータから算出します。(これについてはいつか別に書きます。)

山本さんが発見された YmoV31 をVSXに登録 (1)

昨年末に個人的に山本さんからメールを頂き、長周期の変光星 YmoV31 (山本さんが個人的に付けておられる仮名称)を見つけたが新変光星だろうかとのご相談を受けました。

VizieRで検索してみると、ATLASで変光星として登録されていますが、タイプは IRR (Irregular)、周期は491日となっています。

今年に入ってASASSNデータをダウンロードしてみました。

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ASASSNのデータで、Vフィルターとgフィルターのデータが混ざっています

黒の小さな逆3角形は星が検出されず、その光度より暗かったことを示します

Kochanek, C. S.; et al., 2017

 

上の図で緑がVフィルターデータで他の色のがgフィルターですが、gのデータを0.77等明るく移動するとピッタリとつながります。

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最初の図中のgフィルターのデータを0.77等明るく移動した(水色)

8400付近でVとgのライトカーブがうまく重なる

 

全部のデータで周期解析をしてみますと、かなり安定した周期246日を持っており、IRRのタイプは当たらないようです。変動幅も大きいのでミラ型がほぼ確実です。

というわけで、ATLASに記載のタイプも周期も間違っていることが確かになり、VSXの規定で山本さんに発見のクレジットが与えられることになります。

ちょっと不思議なのはASASSNデータがこれほどはっきりしているのにASASSNの変光星データベースに載っていないことです。

KaiV107の発見からVSX登録まで(9)  「VSXに登録」

2019年の観測はVフィルターで行いました.

そのデータと2017年、2020年のCフィルターでの観測の食外の光度を比較しました。Cフィルターでの観測データで比較星の光度にV光度を使うと(このような場合、VSXではCVデータと表記することになっています)2019年のVフィルターデータと、補正値を加えることなくマッチすることがわかりました。

そこで2017年、2019年、2020年の3シーズンの全データをそのまま組み合わせて位相図を作成することにしました。

 

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緑は2019年のVデータ、青は2020年のCVデータ

その際、何回か観測された第一極小のカーブができるだけ重なるように周期を少しずつ変化させてベストの周期をまず探し、それからフェーズ 0.0 の軸に対してカーブが対称になるように元期を少しずらしました。(上図)

これによって得られた元期と周期で第二極小付近の位相図を見ます.

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第二極小はフェーズ 0.495 付近に来ることが分かった

さらにKaiV107のAPASSのデータを取得しましたが、結構ばらついており諸要素の本質的な改良には役に立ちません。ただ、食外光度がほぼ妥当であることはわかりました。(下図で赤いデータポイント)

これでKaiV107のいろいろなデータが揃ったのでVSXに登録する準備が整いました。

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全体の位相図を作成し、12月3日にアップロードしたら15分後には下のメッセージが来ました!発見から約5ヶ月かかって登録できました。これでVSXに登録できた新変光星が80個になりました。なお、書いたかもしれませんがこの変光星はどのサーヴェー(ATLAS、ASASSN、ZTF)にも記載されていない完全に新変光星でした。

Dear Kiyoshi Kasai,

Congratulations! Your submission to VSX of the new variable star 'KaiV107' has been reviewed by a moderator and APPROVED. The data from this submission is now available from the public database. In addition, an AAVSO Unique Identifier (AUID) of 000-BNS-570 has been assigned to the star, and may be used when submitting observations. Your assistance in making VSX a better tool is much appreciated.

Clear skies,
VSX Administration

KaiV107のページです。

https://www.aavso.org/vsx/index.php?view=detail.top&oid=2214290

KaiV107の発見からVSX登録まで(8)「新しい位相図」

周期を2倍にして9月19日までの2020年の全観測データを位相図にしました。

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元期は今まで通りで、周期は今までの4.1332日の2倍で8.2664日です。

この要素でそれぞれの極小付近を拡大してみますと。

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第一極小付近です

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第二極小付近です

第二極小がフェーズ 0.5 より少し左にずれていて、この星のシステムが楕円軌道を描いていることがわかり、周期も今までの2倍と確定できました。ブログの前シリーズで紹介したKaiV110の場合は、長い周期を考えていたのがどんどん短くなり、最終的には1日あまりになったのに対して、今回のKaiV107では短く考えていたのが、2倍2倍と、どんどん長くなっていきました。

この発見のきっかけとなった9月18日の観測データはフェーズ 0.5 のあたりの少しスキャッターが多く幅が広い部分で、第二極小のズレは位相図ではほんの少しに思えますが、観測では約1時間のズレとなったわけです。

 

KaiV107の発見からVSX登録まで(7)  「18日の極小は今までの極小とは異なる!」

前々回書きましたように、1年前の極小が位相図でちゃんとフェーズ 0.0 に乗るという事はこの周期はかなりの精度があると保証されます。

前回書いたような予報と極小時刻がずれたということは、今までの極小とずれた極小は異なる極小という結論に達しました。つまり周期を今までの2倍に取り、今回の極小を第二極小とすると第二極小が少しフェーズ 0.5 より早いのだろうと考えられます。

2020年9月の観測データだけでその考えに従って作った位相図がこれです。

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フェーズ 0.0 の極小は14日の、フェーズ 0.5 の極小は18日の極小です。

 

KaiV107の発見からVSX登録まで(6)   「極小時刻が予報より早い?!」

 昨年の9月はかなり良い天気が続き、14日は予報どおりに極小が受かり、次の極小は18日夜の予定でした。その晩はバーゼルの音楽堂が4年がかりで改築されて新しく入ったパイプオルガンのお披露目の演奏会がありました。遅くなって帰宅し、まずSS CYGを赤澤さんのために観測してからKaiV107の観測を開始しました。それでも極小時刻には間に合うはずで、しかも極小そのものはもうこれで何度か受かっているのでそれほど重要性は無いと考えていました。

ところが明くる日観測データを処理していてこれはおかしいと思いました。極小が十分に受かるはずだったのになんと増光部分しか受かっていないのです。スキャッターが多い観測でしたが、下図がその晩のライトカーブです。

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予報の極小時刻はJDで0.475付近

X軸の数字が小さくて読めないかと思います。左から0.44、0.46、0.48ですので、0.475は左から3番めの縦線のすぐ左付近となります。どう見てもそのあたりに極小があるようには見えず、ただ緩やかな増光しか受かっていません。

とにかくこれはショックでした。しかし完全に食外というわけではないので、極小時刻が少し早かったのだろうという結論になりました。

それからこれが何を意味するのか考えました。