KaiV110の発見からVSX登録まで
あけましておめでとうございます!
本年もどうかよろしくお願いいたします!
予告いたしましたように、昨年発見した新変光星、KaiV110をVSXに登録するまでの経緯を書きたいと思います。
2017年5月に矮新星を観測していてKaiV66と67を発見しました。以来その付近でいくつも新変光星が見つかりました。
KaiV66,67,88,89,97,98,99,102,107,109,,110,111,112 と13個!
いくつか変動が小さいものが混ざっていますが、その中で66,88,98,107,がVSXに登録されました。(89は先を越されてしまいましたが、登録されていた周期が間違っていたのを直しました)
67は大変に面白い変光星でこれについては数回書きましたが、まだ登録していません。
ところで、時々同じ星の観測の際にそれまでのように写野を選ばずにたまたま少しずれることがあります。そのようにして昨年9月6日に写野がほんのわずかにずれたおかげでこのKaiV110が見つかりました。下図の中で右上のフレームの左下縁ぎりぎりにKaiV110が写っていたのです。(小さな赤い点)
それ以後はKaiV67を観測する際にはこの星が写野の縁から十分に離れるように写野を決めました。昨年の9月は天気が今のような悪天候からは想像できないくらい晴れ続けました。そうこうしているうちに9月18日にまた極小が受かりました。とりあえずこの9日強を周期として位相図を作ってみました。
周期9.0076日ではいつまでたってもフェーズ0.5のあたりが観測できません。こまってしまいましたが、KaiV67の観測はそれまでかなりの量のフレームが溜まっているので古い観測フレームにたまたまKaiV110が入っていないか調べ直すことにしました。
2020年のVSXへの新変光星の登録は7個
今やいろんなサーヴェーが新変光星をごっそり見つける世の中ですが、それでもこの一年で合計7個の新変光星をVSXに登録できました。
内訳は私のKaiVが4個(105,106,110,107)、伊藤さんのItohVが2個(03,02)、山本さんのYmoVが一つ(30)です。
伊藤さんの新変光星の登録についてはブログに書きました。
それから山本さんの新変光星についてもブログに書きました。
私のKaiV105については
KaiV106については
KaiV110と107についてはまだブログに書いていませんでした。両星ともにEAタイプで、KaiV107がVSX登録80個目でした。年が開けたらこの2つについて書きたいと思います。
コロナに振り回された2020年でしたが、皆様にとって来年が佳き年となりますようお祈り申し上げます。
Canon EOS Kiss X7 のリニアリティーについて (6)
先日大島さんが、ピント少し外してドーナツ状の星像でもAIP4IWINではちゃんと星像として認識してくれますよと書いて下さいました。
下は以前に載せた2段ピントを外して撮影した画像ですが、最初はこれを調べても役に立たないのではと考えましたが、念の為にAIP4IWINで調べてみようと思い立ちました。
やってみたらちゃんとデータが採れます。アパーチャー径は更に大きくとって5としました。
ピーク値は流石に下がって7等台の星でも16000!しかし星像が広がっているのでトータルには6万を超えています。(昨日の組み合わせでは半分の3万でした。)
これをグラフにしますと。
見事に7等台まで線形モデルの直線に乗りました。しかも「高輝度側、階調優先」のオプションなしでです!もし更にこのオプションをするとフラックス値が半分くらいになってしまうので結果的にはエラーが増えるだけなのではないかと考えられます。
色々と紆余曲折があって、最終的には先輩諸兄のおっしゃるように「ピントをぼかして」が一番効果があるやり方のようです。
長いお話を読んでくださったのに、最後には「なーんだ」となってしまい申し訳ありません。
どっと疲れが。。。。
(ただ、「高輝度側、階調優先」のオプションで、ピントをきちんと合わせなければならず測光を必要としない天体写真、例えばオリオン大星雲の中心部の明るい部分が白飛びをおこさないように出来るかもしれません。自分ではやっていないのでなんとも言えませんが。)
Canon EOS Kiss X7 のリニアリティーについて (5)
前回、「ピント少し外し」、「高輝度側、階調優先しない」のオプションで撮影した画像のリニアリティを載せましたが、同じピントのママで「高輝度側、階調優先」を「する」にして撮影した画像のデータです。アパーチャーはまた3.5に取りました。
顕著なことは、星のアパーチャー内のカウントの合計V5の値が、「高輝度側、階調優先しない」のV5と比較すると半分に減っています。従ってV6の値も約0.75等暗くなっています。そして一番明るい星のピーク値が22000あまりと、かなり低くなりました。
上記のデータのグラフです。
これだと見事に一番明るい星も線形モデルの線上に乗りました!
難を言えば今度は暗い星が線から外れています。
このグラフから、「高輝度側、階調優先」のオプションを「する」にするとリニアリティが明るい星まで保持されていると思われます。その際全体のフラックス値を下げてそれを可能にしている感じです。なので暗い星で精度が悪くなるのかもしれませんが、このあたりはもっとテストをしなければはっきりしたことは言えないと思います。
なお、ピントを少し外したからには星像も少し大きくなっていると考えられるので、アパーチャーのサイズを3.5から4.5に大きくしてデータを採取しました。しかし本質的な変化があるようには見えませんでした。いくつかのデータポイントが線形モデルの線にほんのわずかですが近づいたのがあります。(3,4、5番目と最後の)
これまでのことから結論としては、Canonを使って測光観測をする場合にはピントをぼかす、「高輝度側、階調優先」を「する」に切り替える(ISOの表示の部分にその場合D+の表示が出ます。)が良さそうです。
次回は今まで述べていないいくつかの点について書きたいと思います。
Canon EOS Kiss X7 のリニアリティーについて (4)
今まで書いてきたことは金田さんとメールをやり取りして色々とご意見を伺いながらやってきました。
どうもリニアリティが21000付近で破綻しているようで、これだと観測できる星の範囲が狭まるとの危惧に、金田さんがピントをぼかして撮影したらどうかと提案してくださいました。フェースブックでも昨日大島さんが同じように助言を下さいました。
以前どこかでデジカメでの変光星観測にはピントをぼかしてやるとよいと読んだので、実はこの春に食変光星の極小観測を開始した当時一度やってみたことがありました。その時はどうもピントを外し過ぎたようで、UGEMが星像を星と認識してくれず、全観測が無駄になり、それ以来試みませんでした。
一方で、前回のブログの終わりに書いたように、なにかカメラの内部で受光部の特性をV6-V8のグラフのようにしている気がして、Canonの説明書を良く読み返してみました。
そうしたらカスタム機能というページがあり、その中に「C.Fn-3 高輝度側、階調優先」 という項目があるのです。このオプションは今まで使ったことはなく、カメラを買った時のままでいじっていないので、オプションは「しない」になったままでした。「高輝度側、階調優先」という意味が良くわかりませんが、インターネットで調べると、「白飛びしてしまうような場面で明るい部分の細かい陰影を出せる」、とあります。
こんなときどうする!? EOS流機能活用術Vol.05 |CANON iMAGE GATEWAY
ひょっとしたら明るい星でもリニアリティが保てるのではと、このオプションを「する」にしてテスト撮影をしてみたいと考えました。
(このカスタム機能はCanon EOSの全モデルであるようです。)
ところがその頃も天気がずーっと悪く観測できそうな夜がなかなか来ません。12月14日の夕方雲の動きをインターネットで見たら日没後ちょっと晴れ間が続きそうなので、ようやくテスト撮影をしました。その際、ピントをほんの少しはずす、更に少し外すというオプションと、上記の「高輝度側、階調優先」を「しない」、「する」のオプションを組み合わせて、それぞれの組み合わせで3枚ずつANDRTを撮影しました。
ピントを2段階に外したのは星像がもうドーナツ状になっていました。
ニュートン式反射望遠鏡やシュミカセの場合、ピントを外すと副鏡の影ためにドーナツ状の星像になり、星像のフラックスの重心が星像の円の中心に乗らずに外れてしまい、下手をするとアパーチャーの中心があちこちに飛び回り、きちんとした測光は難しい感じです。
さらに、使っているニュートンはF6で焦点が合う範囲がせまく、ほんの少し外すとすぐにドーナツになるのでその加減も微妙です。ピントをきちんと合わせる時は、明るい星を写野の中央に入れ画像を拡大して、副鏡の影響で出るスパイクがはっきり見えるようにします。その状態から指加減でほんの少しずらすのはなかなか難しく、再現性も正直なところないのが問題です。
さて、ピンボケにしたら明らかに状況が改善されました。
下記のデータとそのグラフは、ピントを少し外し、「高輝度側、階調優先」のオプションは「しない」状態での撮影です。3枚のうちの一枚のフレームでAIP4IWINを使って前回のようにデータを得ました。(前回書き忘れたのですが、星のアパーチャーサイズは3.5で、今回も3.5でやりました。)
最初の7.220等の星のピーク値は25000弱ですが、その次の星からは21000以下となり、大部分の星が安全圏内に入りました。
一番明るい星以外の星が青線にかなり綺麗に乗りました。7.220等の星はまだ青線からちょっと外れてやや暗い値となっています。
さて「高輝度側、階調優先」のオプションの効果には実は金田さんも私も半信半疑でした。
続きは次回
Canon EOS Kiss X7 のリニアリティーについて (3)
AIP4WINにフレームを一枚取り込んでSingle Star photometry tool を起動し、アパーチャーサイズを決めて画像の星をクリックしていくと次のようなデータが最終的に得られます。
V1,V2はクリックした星の座標
V3はそれぞれの星のアパーチャー内でのピーク値
V4はその付近のスカイ値(どこでもほぼ同じ)
V5は(アパーチャー内の合計値)- (スカイ)
V6は器械等級に約21.54を加えた値で、その星の光度にほぼ近い値となります
V7はエラー値
V8は私が後で付け加えたもので、それぞれの星のAPASSからのV等級
特に重要なのはV3,V5,V6,V8です。
星のナンバー付けが完全に明るい順ではなかったのでV8のAPASSの値で順序を変えて読みやすくします。
この表の最初と最後の行を見比べただけでもリニアリティがどこかで破綻しているとわかります。V6での1と15の両星の差は3.7等あまりなのに対してV8での実際の光度差は4.5等あまりもあります。明るい星が暗めのフラックスしかないことがわかります。
これをわかりやすくするためにV6を縦軸にV8を横軸にしたグラフを作ります。
ナンバー5のVmagが8.956の星より暗い星のデータポイントは青い直線の上にきれいに乗ります。しかしそれより明るい星は明るければ明るいほど、その直線から外れて暗い測定値となります。
ナンバー5の星のデータを見ると、ピーク値が21000弱です。どうもこのあたりがリニアリティの境界線ということがわかり、APASSの値で9等より明るい星は気をつけなければならないということになりました。
このグラフを見て、どうも飽和するというより、なにかカメラ内の処理のソフトでこのようなことが起こっている気がしてきました。
続きは次回。
Canon EOS Kiss X7 のリニアリティについて(2)
もう一度復習しますと、今回のANDRTのライトカーブの歪みは測光ソフトや、測光の仕方が原因ではなく、キャノンの受光部がある輝度(それも比較的低い)をこえるとリニアではなくなり、そこの範囲では撮影された星像のフラックスが本来ならあるべき量より少ないということが原因です。
前回AIP4WINで測光したライトカーブを掲載しましたが、その測光の際には比較的明るい比較星 TYC 3998-246 Vmag 8.787 (APASS) を用いました。ANDRTは観測開始時には9.0等ぐらいで測光されていますので、両星ともにリニアリティが成り立つ範囲の外にあったわけですが、差光度はそれなりに(範囲外の部分のリニアリティに従って)測られて、ライトカーブがほぼ対称になったわけです。
それならば、暗い比較星を使ってAIP4WINで測光したらUGEMでの測光のようになるはずです。試してみました。
その結果のライトカーブが下図です。
前回の第一番目の画像、UGEMで測光した結果と同じようなライトカーブが出ました。実際にはこのライトカーブの方が撮影された星像のフラックスを忠実にあらわしていることになります。(細かいことですが、AIP4WINで測光すると時間軸が本来の観測時刻とは全く異なる値が出てきて困ります。ここでは面倒なのでそのままにしてあります。)
金田さんが送ってくださったデータでは、ANDRTの近くの8つの星のフラックスやピーク値、カタログの光度値などの関係を調べてくださいました。そのアイデアを頂いて、ANDRT付近の星を明るいものから暗いものまで15個選んで、AIP4WINのSingle Star photometry tool というのを使って観測開始時の頃のフレーム一枚で、15個の星のフラックス、ピーク値、器械等級などを調べました。
これがその15個の星で、約7等から12等でフラックスで約100倍の差があります。観測画像の中央部分で直径30分以内に取りました。(画像全体は2.1度X1.4度)
結果は今までの推論があっていることを示していました。
続きは次回